歴史のなかの大地動乱

歴史のなかの大地動乱――奈良・平安の地震と天皇 (岩波新書)

歴史のなかの大地動乱――奈良・平安の地震と天皇 (岩波新書)

2011年の東日本大震災を契機に書かれた本。あの時に貞観地震(著者は陸奥海溝地震と呼ぶ)がずいぶん話題になった。その頃、8、9世紀は日本にいくつかある大地動乱の時代だった。日本だけではなく、東アジア全体が動乱していた。
864 富士噴火
867 豊後鶴見岳阿蘇山噴火
868 京都群発地震 播磨国地震
869 陸奥海溝地震貞観地震) 肥後地震
  870 新羅 慶州地震
871 出羽鳥海山噴火
  872 新羅慶州地震
874 薩摩開聞岳の噴火
  875 新羅慶州・東部地震
878 南関東地震
880 出雲地震 京都群発地震
885 薩摩開聞岳の噴火
886 伊豆新島の噴火
887 南海・東海連動地震
915 十和田大噴火
  946 長白山脈 白頭山大噴火

富士噴火から南海・東海連動地震まで23年。十和田噴火を入れて51年 白頭山を入れても82年の間にこれだけの地震、噴火が起きたのだ。(韓半島地震は被害は少なかったようだが地震自体が大変珍しい)

それ以前の7世紀にも地震噴火が多かった。
  664 新羅・慶州大地震 日本でも
678 筑紫地震
684 南海地震 伊豆神津島大噴火
701 丹後地震
715 遠江三河地震
734 河内・大和地震
742 大隅海底火山噴火
744 肥後地震
745 美濃地震
762 中部地方地震
764 大隅海底火山噴火
772 豊後鶴見岳噴火
  779 新羅王都大地震

この、8、9世紀は奈良時代が終わり平安時代に入る、皇統においても混乱の多かった時代であった。
歴史漫画等で得たイメージでも、万葉(飛鳥)の時代になかった物の怪や怨霊が、『源氏物語』の時代になると跳梁する。
それは、皇統の混乱と収束の中で無念に死んでいった者たちが多かったことと、この大地動乱が原因なのかもしれない。
著者によると怨霊化したものの最初は長屋王であるという。(万葉時代の人物)(それ以前にも、有馬、大津、崇峻天皇など無念に死んでいった者はいたけれど確かに怨霊化したイメージはない。)
以後、桓武の即位に向け排された井上内親王他戸親王らが怨霊化していく。
地震の多かった時代、陵墓が地震に襲われることが、そこに祀られた人間の怒りと感じられたこともあったようだ。

また、この時代は疱瘡などパンデミックの時代でもあった。 地震、火山、疫病が三位一体となって人々を襲った。それは自然神から祟り神へと神の姿が変わっていく時代でもあった。御霊信仰祇園会などもこの時代に始まった。
天皇は、災害の多い日本では無理のある天譴思想に苦しめられつつも、反対に天皇の力を強化していく。万世一系を意識し「君が代」と歌われるようになるのもこの8、9世紀なのだ。

八百万の神の国日本で、火山や地震が神として祀られなかったはずがない。天照大神に人為的に収束させられてしまった日本神話の中に、その痕跡を探そうとしている。

追記:『呂氏春秋』には「地震のおそれを転移させるために国城を増すなどの事業をおこしてはならない」とあるそうだ。復興オリンピック!などという現代日本よりもよほど理にかない、心がある。