『盤上の敵』

北村薫著。
盤上の敵
妻を人質に取られたテレビ制作者が、妻救出のために、警察を出し抜いて犯人と交渉をする。果たして、妻を無事に取り戻し、しかも犯人を逃さないためには、どのような手を打てばいいのだろうか?

という話なんだけれど、チェスに例えるのならば、犯人側からの視点も交互に描かれてこそ、「盤上の敵」になるんじゃないかと思うけれど、交互に語られるのは白のキング(主人公)と白のクイーン(妻)の視点ばかり。ちょっと違うんじゃないかと思った。
だけれど、作者の話を読んでみると、寓話として白と黒の対決を描いたそうだ。だから、妻はまったき白なわけね。

少女時代の彼女が受けた陵辱は許せない。それは確か。けれど、殺人を犯し、それを忘れてしまっても許されるほど無垢な存在なのか。彼女の無垢というのはそこまでして守らなければならないものなのか。第一、自分たちを「白」と位置づける主人公はどういった存在なんだろう?もちろん、自分の中にも犯人たち(黒のキングとクイーン。事件はそれぞれ別だけど)の要素があるのかもしれない、とは言っている。だけど、そんなの作者がちょっとフォローを入れただけにしか思えない。だって、「白と黒の寓話」なんだから。
別に、犯人たちのこうなったいきさつを描け、とか、彼らにも事情があるだろう、なんてことが言いたいわけではない。ただ、主人公のあり方に大いに反感を持っただけ。寓話なら寓話で、三人称にすればもう少し読めたと思う。

この人の他の作品はみんな好きなんだけど、これだけはだめだった。
評判はいいみたいだけどね。