『映画道楽』

鈴木敏夫
映画道楽
スタジオジブリ」取締役社長である鈴木氏のエッセイ。
元々は徳間書店の編集者だったのね。「週間アサヒ芸能」から「アニメージュ」に移り、徳間社長から「企画のあるやつはもってこい」と言われて、宮崎駿と企画を立てた、というのが宮崎、高畑勲ジブリとの関わりの初めらしい。
徳間書店が「巨匠宮崎駿」に寄っていったのかと思っていたら、徳間ありきだったのが意外だった。
しかし、鈴木氏、高畑氏にはいろいろ教わった(目を開かれた)という記述が多いのに対し、宮崎氏とはぶつかったという記述が多い。この辺はそれぞれの発想の違い、方向性に寄るものなんでしょうね。

この本を読んで今になって納得したのは、「アマデウス」について。
映画を見てそれほどおもしろいと思わなかった数年後に、舞台を見て、非常におもしろくて驚いたのだ。
映画と舞台、どこが違ったのか、どうして片方はおもしろくなかったのかわかった。
映画は、モーツァルトを中心にあつかっていて、天才はこんなに変だった、ということが強調されていた。一方、舞台ではサリエリが主人公で、颯爽と登場する青年サリエリが非常に印象的だった。そして、その青年がやがてモーツァルトの天才ぶりを見せつけられて壊れていくのだ。
鈴木さんは、舞台版が、サリエリが主役ということを知らないまま、「サリエリを主役としないのは変だ」と言っている。その辺が編集者、プロデューサーの感覚なのだろう。(映画についてはもう少し話が続くのだけれど、この辺で)

それから、おもしろかったのが押井守氏のオリジナルアニメーションビデオ「天使の卵」。これは、非常に静かな、抽象的な物語だったのだけれど、元々は、コンビニを舞台にしたコケティッシュなコメディの予定だったという。キャラクターデザインを頼んだ天野喜孝が、「タイムボカン」はもうやりたくないと思って、全然違ったキャラクターを作ってきて、それを見た押井が企画自体をまったく変えてしまったのだという。監督中心主義の日本だから起きたことだという。ディズニーなどでは、企画が先にあり、細かく役割分担を行うので、途中でイメージがずれることなど起こりえない。
(余談だけれど、この「天使の卵」のビデオは高校時代同じクラブだった五十嵐大介君に借りた。その後の彼の感性表現と活躍は知る人ぞ知る、ですね)