『不機嫌なメアリー・ポピンズ イギリス小説と映画から読む「階級」』

新井潤美
不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」 (平凡社新書)


イギリスには今も階級(の名残)があり、それは小説・映画などに厳然として現れている。
アッパークラス 地主・貴族など
アッパーミドルクラス 知的職業:聖職、研究職、法律職など地主・貴族の長男以外が就く職業。               軍士官 金持ち商人。
ロウアーミドルクラス ワーキングクラス出身者が教育などにより地位を上げた。事務職や小規模小売業。

ハリウッド(アメリカ)制作の映画などではだいぶ階級食は薄まっているものの、ジェーン・オースティンの小説などでは、同じ階級動詞の男女がくっつくのが幸せだ、という価値観が貫かれているという。
また、最近の『ブリジット・ジョーンズの日記』でも、ブリジットとダーシィの出身階級の違いがはっきりとわかるように書かれているという。

映画「小さな恋のメロディ」は日本では「パブリックスクールが舞台」などと書かれることがあるが、あれは「ロウアーミドルクラス」が舞台だという。
それで思い出したのが、中学時代これの原作だかノベライズだかを読んだとき、メロディが公園で変質者にあったところがあった。母親が「その男のあしを見たか?」と聞き、メロディが「見たけどそれが何?」というと、「んまあ!?」という反応になった。「あし(足だか脚だか)」が性器のことだというのは見当がつたのだけれど、「あし」なんて言うんだ……とちょっと印象に残った。
で、本書によると、こういう気取った言い方はロウアーミドルクラスのものなのだそうだ。他にも、聞き返すのに「what?」はアッパーで「Pardon?」というフランス語起源の言い方が、non-U(アッパーじゃない)ではない。もちろんアメリカ英語としては「Pardon?」でいっこうにかまわないのだけれど。
こういう昔ちょっと引っかかったことが解決するって楽しい。

もう一つ映画「コレクター」で、監禁するクレッグより監禁されるミランダの方がずっと体格がよくて「なんでだめで元々殴り倒して逃げないんだ!」と思っていた。それは、クレッグがもとは事務職のひ弱なロウアーミドルクラスで、ミランダは健康なアッパーミドルクラスだからなのだ。(実際には映画ではこういう階級の違いはほとんど出ていなかったそうだけれど)

私たちは普通アッパークラス(貴族)というと風にも当たらないひ弱なイメージだけれど、少なくともイギリスではアッパーは乗馬などで鍛えた体を持ち、インテリではない
対して、事務職や店員などのロウアーミドルクラスは青白いイメージだそうだ。
ちょっと不思議だけれど、チャールズ皇太子夫人のカミラさんの馬のように丈夫そうな様子を思い浮かべれば納得。
それから、アッパークラスはインテリではない、というのもちょっと意外だけれど、とある公爵夫人などは年末の読書アンケートなどで「今年読んだ2冊のうちでもっともよかったのは……」などとわざと答えるという。エリザベス女王の愛読紙が競馬新聞、というのが不思議だったのだけれど、これもそう言うことなのだろう。
映画などで発音の特徴が聞き取れれば、もっとおもしろいのだろうと思う。ベッカムの発音がnon-Uなのは一聞瞭然だけれど。