『川のほとりで』

坂本のこ著
川のほとりで (文学の散歩道)

童話教室の大先輩、坂本のこさんの長編児童文学新人賞受賞作品。
実は受賞後、一度原稿を見せていただいている。本にするに当たってアドバイスを、とのことでした。
それで、いろいろと重箱の隅をつつくようなことを言わせていただいた。
そして、晴れて本になったこの作品。
本当にびっくりしました。以前に見せていただいた原稿だって、立派に賞を取ったものだったし、内容だって文章だって高レベルのものでした。
ところが!この完成作はそれよりも一段も二段もレベルアップして、まるで違う次元の作品に仕上がっているのです。
これが一度のことではないんです。これまでにも幾度か短編、長編、草稿と決定稿を見せていただきましたが、常に最後で作品が「化けて」います。
妥協を許さない、とことん作品を、自分を追いつめていく、そんなのこさんの作家魂に感服しました。
と、仲間褒めはあまりいいことではないかもしれませんが、本来ファンタージーが好きなのこさんが、リアリズムに徹して少年少女の苦しみと、その克服を描きました。
すごいのは、「事実」は何一つ変わっていないことです。彼らを苦しめていたものは、少しも変わらずそこにある。しかし、そこには確かに救いがあるのです。
そして、なんと言ってもすばらしいのは「川のほとり」というその舞台です。
県境の川、その草が生い茂った川岸に、少年だけの秘密の庭があった……
大きな川の開けた、海まで続いて行くことを感じさせる開放感。生い茂った草の閉塞感と裏腹の守ってくれるような感じ。コンクリートの橋や護岸の人工的な要素と、少年が大切に育てている小さな植物。荒れた風景にも整えられた風景にも、どちらにも見える風景。
あらすじはあえて書きません。(書けません)
ただ、読んでください、とだけ。