「君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956」

【1956年の“ハンガリー動乱”と、その数週間後に起きたオリンピックでの“メルボルンの流血戦”という2つの史実を背景に、歴史と政治に翻弄されながらも最後まで自由を求めて闘った若者たちの愛と悲劇の物語をエモーショナルに綴るヒューマン・ストーリー。監督はこれが長編2作目のハンガリーの新鋭クリスティナ・ゴダ。
 1956年、ソ連支配下にあったハンガリーの首都ブダペスト。独裁的な共産主義政権に対する市民の不満は募り、学生を中心に自由を求める声は日増しに高まっていた。そんな中、政治にまるで関心のなかった水球のオリンピック選手カルチは、学生たちに連帯を呼びかける女性闘士ヴィキの姿を目にして心奪われる。そして、10月23日。その日、オリンピックへ向けた合宿が始まる予定だったカルチは、街でデモ隊を導くヴィキを見かけ、彼女の後を追う。やがて、デモが激しい銃撃戦へと発展していく中、一度は合宿に合流したものの、もはや傍観者ではいられなくなり、再びヴィキと共に、闘争の最前線へと身を投じていくカルチだったが…。】allcinema on line解説より。

以下、作品の最後までの展開に触れています。




こういう映画は見ているだけで憔悴する。
秋にブダペストへ行ったのだけれど、ツアーだから限られたところしか歩かなかったとはいえ、見える限りの町並みは美しく、そして、歴史あるものに見えた。しかし、ソ連軍の戦車にずいぶんやられたようなのに、ニュルンベルクなどのドイツの町もそうだけれど、こういう、「元の通りに復元する」というヨーロッパ人の意地のようなものは本当にすごいと思う。
この前も書いたけれど、自分は共産主義、というよりも、共産主義に夢を託した人々寄りに考えるところがあるので、この映画に描かれたソ連人(特に水球の選手たち)はあそこまで悪く書く必要があったのかと思ってしまう。今だから断罪していいってものでもないだろうと。ただ、ちょっと読んだパンフレットには、確かに血を流しているハンガリー水球選手の写真があったから、ある程度は、試合中のひどい振る舞いも事実なのか?

すごい作品だとは思うんだけど、自分としてはいまいち共感できなかった。特にヒロインに共感できないのがきつかった。集会などでは先頭に立って声を上げてみんなを焚きつけて、誰よりも勇ましい感じなのに、いざことが起きるとさっさと逃げて無事。それはヒロインだから最後まで生きていなければ、というか最後に死ぬためには最後まで生きていなければ、というのは分かる。だけど、「生き延びることを選んで」と言ったもう一人の(恋人の子を身ごもった)女性を遮ってまで銃をとったのに、その女性が危険な場所に戻ろうとしているのをぼんやり見送り、案の定彼女は死んでしまう。
ソ連軍制圧後も、機関銃を担いでウロウロして、AVO(ハンガリー秘密警察)に見つかると、おろおろして銃を捨てる。
革命とオリンピックの間でさまよっている主人公とともに、中途半端。それが、最後の最後の死につながる決断と結びついて、それを引き立てるためなら分かるんだけど、そう言うわけでもなさそうだし。
ちょっとした台詞、演出を変えればずっとよくなるし、共感できるようになるんじゃないかと思うんだけど。

また、例によって自分がそんなところにいたら、と思うとぞっとします。
疎開したい。静かな田舎で、こき使われても平和に生きたいと思ってしまった。仲間の名前を書け、と言われたら、確実に死んでると知っている人物の名前を書くだろうな、と思います。臆病ものだけど、卑怯にはなりたくない。だけど、そうすると遺族がひどい目に遭わされるのか。。。。そんな目に遭う前に、死にます、殺してもらいます、一発で。仲間を売らずに拷問されるなんて耐えられないし、仲間を売るのもいやだから。

さて、ブダペスト、半日足らずの自由行動の時にどこへ行ったかというと「恐怖の館」。ここは昔の秘密警察、ってことはAVOなんでしょうね、のあったところ。今はそこが博物館になっている。様々な人の証言がテープやビデオ、文章で展示してあるんだけど、こちらはすべてハンガリー語、英語の解説すらないので一切分からず。共産党幹部専用の豪華な車や、共産主義時代の商品や広告の展示はおもしろかった。
そして、圧巻だったのは地下の拷問部屋と独房。
お風呂の洗い場のような排水溝のある拷問部屋。
人間の想像力は人を痛めつけるためにここまで発揮されるのか、と思えるような独房。
言葉にしてしまうと「そう言うの、聞いたことがある」ですまされてしまいそうだが、実際にその場に立つと背筋がぞっとして苦しくなった。
体育のマットのようなクッションを四方八方敷き詰めた部屋。
身動きできないように両手を下げて直立するだけのスペースしかない小さな部屋。
中腰でいるしかないような天井のとても低い部屋。
特に、直立の部屋と中腰の部屋で、何かに自分はすごくぞっとしたんだけれど、それが今日映画を見ながら思い返していて、やっとなんだか分かった。
それは、部屋の石の壁がすごくすべすべだったこと。そこに入れられたおびただしい人の体で石が、まるで中世の遺跡であるかのようにやわらかくすり減っていたこと。そのことにぞっとしたのだった。

結局、自分語りになってしまいました、すみません。