ゲゲゲの女房

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ゲゲゲの女房

ゲゲゲの女房

水木しげるの奥さんの、手記。生い立ちから、水木との出会い、「漫画家の女房」としての生活を、2008年の現在まで書いている。
自分でも言っているように、この人は「昔の女性」としての生き方をしてきたと思える。
家族を支えるために婚期を過ぎ、家族が落ち着いたら、じゃあ、結婚だ、と見合いの5日後(!)には、結婚して上京する。挙げ句の果てに、仲人口で聞いていたこととは違う、税務署の人から「この収入で暮らせるはずがない」と断言されるほどの赤貧生活。そして、その赤貧生活の中で、入ってきたお金は、義父母、兄家族へ優先的にまわされる。
自分は絶対にできないし、正直、したいとも思わない。(未来が売れっ子漫画家の奥さんであったとしても)けれど、やはりこういう生き方は美しいと思う。誰に、強制できるものでもないが、誰かがその道を歩き続けたとき、やはり、こういう生き方は美しい。

さて、この本を読んで一番印象に残ったのは、

 この頃から、読者やファンに対しては意識して「水木しげる」の役を演じなければならないと思うようになっていたようで、身内や古くからの親しい人に対してと、草でない人に対するときとで、接し方が変わるということが、その後、長く続きました。

 しかし、後年、自分のことを「水木サン」と呼ぶようになると、ある意味で、水木しげるであることが、より自然になっていきました。

という部分。これだけ読むと、外面のいい裏表のある人物に見える。だけど、これはそう言う意味ではない。
人に頼まれると「がんばるなかれ」とか「なまけものになれ」と書く水木しげる。だけど、(本名)武良茂は誰よりもひたむきに努力する人間だった。のんきもののようだったが、貧乏に戻るのが怖くて仕事が断れなかった武良茂。ゲーテを愛し、エッケルマンの『ゲーテとの対話』が愛読書の武良茂。

私たちが、水木しげると聞いてイメージするのは、あくまで「水木サン」であって、武良茂ではないのだな、と思った。
つくづく不思議な人物だ。