『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (Bunshun Paperbacks)

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (Bunshun Paperbacks)

こういう、「アメリカってだめよねー」的な本につい手を伸ばしてしまうのは、我ながら性格が悪い。
この本はあちこちに発表したコラムがもとなので、1つ1つが短くて読みやすかった。

これまで読んだことと重なることも多かったけれど、印象に残ったのは二つ。

1つは、今回の大統領候補指名選挙で、オバマ大統領と戦ったヒラリー氏には、かなりな風当たりがあったと言うこと。オバマ氏が黒人であることをおおっぴらにあげつらうことはできなかったが、ヒラリー氏が女性であることはかなり言われた、とは知っていたので、自分は正直女性としてヒラリー氏を応援していた。
その、ヒラリーさんに対する「意地悪」の1つが書かれている。テレビの公開質問で、キャスターは必ずヒラリーさんに最初に質問をぶつける。ヒラリー氏がかなり苦しんで答えた後で、オバマ氏がヒラリーさんの答えの穴を突くようなことを交えて、回答する。質問が、交互ではなくいつもヒラリー氏に最初に聴かれたのなら、やはりこれは公平ではないだろう。
それで、あるコメディー番組で、キャスターとヒラリー氏のそっくりさん(とたぶんオバマ氏のそっくりさん)が、コントを繰り広げた。

「ヒラリーさん、プーチン大統領の後継者の名前はなんでしょう?」
「え? エーと、ド、ミトリー・めど、メドベ……」
「ブーッ、ドミトリー・メドベージェフです。オバマさん、同じ質問です」
「……ドミトリー・メドベージェフ?」
「ピンポーン!オバマさんは素晴らしい!」
等々。

このコントが放送された直後の公開ディベートでも、実際にヒラリー氏にばかり最初に質問をぶつけられたという。そして、ヒラリー氏は「さっきから、必ず最初に私に質問しているけど、先週の『サタデーナイトライブ』ご覧になった?」と切れた。そして、マスコミはこれまでのオバマ氏よりの報道を反省し改め、直後の州の選挙ではヒラリー氏が勝ったという。
日本のテレビでも、「ヒラリー氏が自分のそっくりさんが出ている番組に登場!」という場面を放送していたけれど、背景は全く言っていなかった。私は、「ヒラリーさんも劣勢だから、こんなことまでするのか……」と思っていたのだけれど、これは、「マスコミのやり口を暴いてくれてありがとう」というヒラリー氏の感謝の表明だったわけだ。
それにしてもやっぱり、黒人であるよりも女性であることが、障害になることはまだまだ多いのだろう。(ヒラリー氏の従来の政治屋っぽさが嫌われたのは、もちろんあるだろうが)

もう一つ印象に残ったのは、これまたオバマ氏のライバル、共和党の大統領候補マケイン氏のこと。日本では、オバマ氏の競争相手、老人で代わり映えしない、おまけに共和党だし……てなイメージでしたが、実際にはすごい人だったんですね。
マケイン氏はベトナム戦争に従軍、乗っていた空母が爆発し、九死に一生を得た時も、火傷が癒えるとすぐに軍に戻った。
その後、乗っていた爆撃機を打ち落とされて、ベトナム軍の捕虜になった。その時には、撃墜の衝撃やその後のベトナム兵の扱いで、両腕と片膝を骨折、肩を砕かれ足を刺され、手当もされずに数日放置されていたそうだ。ベトナム軍は、彼の父が敵の提督、それも太平洋方面司令官だと知ると、彼に治療を施し、取引材料として捕虜交換でアメリカに返そうとして。しかし、彼は一人帰ることはできないと拒否、結局5年半とらわれの身でいた。その後、ベトナム軍に有利な告白を引き出そうと、連日拷問され、最後には懺悔のテープを採られた。父を裏切った自分に絶望し、自殺を図ったが助けられる。
戦争終結で、マケイン氏は釈放されたが、36才の彼の髪は真っ白になり、膝や腕にも一生不自由を負った。
それから、政治家に転身した彼は、90年代、上院議員としてベトナムアメリカの架け橋となり、国交を正常化し、ブッシュ政権によるテロ容疑者への拷問にも、拷問の経験者として激しく反対した。他にも、不法移民の米国籍取得を援助する法案を、民主党の議員と協力して提出した。
そんな彼に、「民主党へ行け」という人もおり、実際に、04年の民主党候補ケリー氏は、マケイン氏を副大統領候補にしたがったが、マケイン氏は拒否した。「共和党を元に戻したい」という気持ちで。
また、彼はバングラディシュ人の女の子を養女にしているそうだ。

はっきり言って、オバマ氏が苦労知らずのお坊ちゃんに見えるほどの経歴だ。こんなすごい人だったなんて、マケインのアメリカもちょっと見てみたかった気がする。


付記(8月20日)
嫌米のような私だけれど、昨年末にはアメリカ旅行に行きました。
いやあ、実にいい国でした。人々はみんな親切だし、旅行しやすいし、普通のところにいくぶんには治安も悪くなかったし。何より、ご飯がみんな美味しかった!
好きですよ。アメリカ。ミステリ好きは、だいたい英米は好きだと思う。