『北政所と淀殿 豊臣家を守ろうとした妻たち』

小和田哲男

新刊が出ると必ず(図書館で……)読む作家に、諸田玲子がいる。彼女の近作『美女いくさ』は、淀の妹、小督を扱った作品だった。この作品を発表した直後に、NHKの「週刊ブックレビュー」に諸田玲子が出演した。
その時の言葉で印象に残っていたのは、「女をバカにするなよ」というもの。秀吉の妻たちはみんないがみ合っていて、最終的にはそれが豊臣家を滅ぼした、という見方に対する反応としていわれたものだった。(それから、淀は、徳川秀忠の妻になった妹小督の幸せを願わなかった、という見方に対しても)
淀は高慢なわがままもので、北政所は、淀に対する嫉妬から家康につき、結果的にそれが豊臣家滅亡につながった、というのが通説だ。
しかし、そうではなく、秀吉の妻たちは、みな、それぞれの仕方で豊臣家存続のために、時には協力しつつ努力したのだ、と言うのが、この、「北政所淀殿」を読むとよく分かる。
北政所と淀は、お互いを尊重し合いつつ、それぞれの役割を果たした。北政所が、恩顧の大名たちに、徳川につくように言ったということはなかったし、淀と北政所との連携も基本的には良く取れていたのだ。
淀の性格が、巷間言われているような、わがままなものではなく、むしろ従順で信心深かった、というのは、小和田氏の本、諸田氏の本ともに書かれているのだけれど、根拠となる資料があるのなら、読んでみたい。
とにかく、北政所、淀、二人に対する印象や、関ヶ原の合戦に対する見方が変わることは間違いないので、歴史に興味のある人なら絶対に読んで欲しい。もちろん、諸田氏の本も。
大河ドラマ天地人」での北政所、淀、二人の描かれ方が、あまりにステレオタイプなので、今時これか、とうんざりする。史実としては否定されている黒百合のエピソードも、ちょっとだけ変形して使われているし、まったく「女をバカにするな」)