『貧者を喰らう国』

貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告

貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告

第1章 エイズ村の慟哭
  90年代に政策として売血が奨励されたらしい。その時の衛生管理のずさんさからエイズになる人が大量発生した。病院も(地方)政府もほとんど保障をせず、ひどい場合には訴え出た人を脅迫罪などで逮捕・服役させているという。売血ビジネスで余った血は、最後職員が「花を染める」のに持ち帰ったという!
 
第2章 荒廃する農村 
  中国語の先生が「中国の歴史で初めて、農民の税金がなくなった」と以前言っていて「農民は無税か。中国はふとっぱらだなあ」と思った。ところがこの場合の「農民税」とは、中国独特の税金で、持っている土地に対する税金。災害などで不作でも、耕作を放棄していても一律に課せられるというむちゃくちゃなものだったという。その他にも、あれを作るから、これにかかるから、とお金を取られる「三提五統」や「両工」という労働供出義務があったという。

第3章 漂泊する農民工
  そして、農業に見切りをつけて都会に働きに出ると農民工となる。彼らは、戸籍を農村から動かせないために、福祉や行政のサービスを勤務地で受けることができない。彼らの子どももまた同じ。

第4章 社会主義市場経済の罠
  また、土地の集約化による「失地農民」も問題になってきている。猫の目のように変わる土地政策。中央政府の政策とは無関係に村などが(使用権を)売り出す小産権。これによって建てられたマンションなどは、ほかと比べて割安だが、中央政府に目をつけられると撤去されてしまう。

第5章 歪んだ学歴戦争
  都会のエリート校(重点校)と農村の普通校。その格差は開くばかり。大学の入試なども、都市の学生に有利なように配点されている。(合格ラインが都市部の方が低い)また「択校」という制度で、お金を払えば学区外の学校にも入れ、また、少々点数が足りなくても合格できるという。
 大学は、借金をして設備を拡充し、収入の8割を利息の支払いに充てている学校もあるとか。
 

中国の変化の速さには目を見張るものがある。個人的に中国語を勉強し始めて、12年ほどになるのだけれど、その間のトピックも大きく変化してきている。
また、日本語教師として、日々中国人の学生たちと接しているけれど、彼らの変化もまた大きい。しかし、中国語の先生も、学生たちも都市出身の豊かな階層の人たち。彼らだけと接していてはわからない中国の側面がここにあった。

一方、後書きでも触れられているように、この中国の実態は、日本を照らし出すのにもつかえると思う。中国の自殺者が10万人中23人と国際的な平均水準の2.3倍である、と書いた部分の注釈で、「ちなみに日本の年間自殺率も1998年以降、常に10万人中23−25人台の高い水準にある」と書いている。
決して、中国のことは対岸の火事ではないのだ。


付記:
 世界の変化の速さと言えばNHKスペシャル「アフリカンドリーム第1回「“悲劇の国”が奇跡を起こす」はびっくりした。あのルワンダが、あそこまでの復興を遂げているとは! しかし、一方、ツチ、フツ二つの民族のうち、富が一方の民族(ツチ)に偏っている状況は、いつか再び爆発を起こすのではないか、という懸念がある。