『学歴・階級・軍隊』

すごく面白かった。
1943年12月、旧制中学以上の学校に通う者の在学徴集延期措置が廃止され、学徒出陣となった。
「ひ弱な学生」で徴収されたのは実際にはごく狭い世代の者たちだけで、彼らは貧乏くじを引かされた事になる。彼らの軍隊生活は、兵営生活、内務班生活と言っていい。それまでの生活では、あるいは平時なら接することもなかった全く違うバックグラウンドを持つ者たちとともに過酷な軍隊生活を送ることになる。その残酷さは、自分の卑怯、弱さを思い知らされることだ。なくした備品を他人から盗む。「巻き脚絆をとらせていただきます」と言った卑屈な態度。内務班のあまりのつらさに特攻隊を志願する者すらいたという。
彼ら学徒は一高東大というコースに代表されるエリートたち。彼らには、自分のエリート性についての冷めた目もあり、それが『きけわだつみのこえ』の編集の曲折にもある。エリート学生の声だけでいいのか?と言うこと。大して靖国神社編纂の学徒の手記編集には迷いがない。
光クラブ事件の山崎の肖像も面白い。コンプレックスと、あっけらかんとした俗物根性。小さな事だけれど、母がヴァイオリニストであったため音楽に関してはコンプレックスがなかったのか、手記に書かれていない、というのが面白かった。
パブリックスクールなど欧米の「上流階級のための学校」に対し、日本の旧制高校・大学は「上流階級を作るための学校」だったという。
雑学として面白かったのは、日本でのイメージと違い、ドイツのギムナジウムは通学が主で、もし「トーマの心臓」の学校が存在するとしたらそれは田園学校の方だろう。ギムナジウムを補完するためにワンダーフォーゲルがあり、先頭を歩く者は指導者「フューラー」と呼ばれた。