舞台「わたしを離さないで」

蜷川幸雄演出。
正直それほど期待しないで見た。主役たちが舞台の人ではないし、あの作品を舞台に刷るのはちょっと無理があった、と言う評も見たので。そして、何より、原作をそれほど評価していなかったから。
どうしてもSFとしての穴が気になってしまって。免疫の問題が解決しているとしても、ヘールシャム出身者がそこまで特別な存在にみえなかったから。他の施設はどうだったのか? 作品を読む限り家畜飼育施設のようなところには思えず、せいぜいやや質の悪い学校、と言ったくらいだろうと思えた。違いは芸術教育があったか否かぐらいじゃないの?とどうしても思ってしまったのだ。
舞台になったからと言ってそこが根本的に変わったわけではなく、ただ、ヘールシャム出身者が「きちんとした」オーソドックスな服装であるのに対して、他施設出身者が「ヤンキー」という視覚的な差を出しているのがわかりやすかったくらい。
しかし、そういった(個人的に感じた)欠点を承知して見て初めて、主人公たちのつらさ、作品で訴えかけたいことが響いてきた。誰にでもある思春期の鬱屈、同世代が寄り集まったときの息苦しさ。そして、彼らにだけある使命感と絶望。まぼろしの希望。
終盤、オフィスを描いた看板が出てきたときには、その残酷さに胸が痛くなった。決して届かない夢。あの後、鈴の方が謝るのに違和感を抱いたほど、八尋の行為は残酷に思えたけれど、だれもそこを気にしていないのがもっとつらかった。夢は叶わない、と言うのが彼らの絶対条件なのだ。
多部未華子をはじめとした役者たちもすごく合っていて、本当にいい舞台を見たと思った。
(映画は未見なんだけど、見たくなった)