『大放浪 小野田小異発見の旅』

鈴木紀夫
大放浪―小野田少尉発見の旅 (朝日文庫)

ルバング島小野田少尉を「発見」した青年、鈴木紀夫氏の放浪の旅を描いた本。
ルバング島への旅は最後に少しあるだけで、大部分はそれに先立つ四年間の放浪、1969年から1972年までの旅が占めている。
本当に「大放浪」で、地図を見ただけでも、香港、台湾から始まってベトナム、タイ、マレーシア、インド、バングラディシュ、ネパール、アフガニスタン、イラン、イラク、クエート、イスラエルケニアチュニジアエチオピア、モロッコギリシアユーゴスラヴィアノルウェー、フランス、ドイツ、スペイン……と旅をしている。

印象に残ったのは
現地で知り合った日本人の放浪仲間と共に、夜イスラエル軍の兵舎に忍び込んで、ベッドやら椅子やら途端などを片っ端から持ち出して、小屋を造ってしまったエピソード。
今のイスラエルなら絶対無理だし、殺されてるだろうな……
二回ほど売血をしている。
それから、一度荷物をぬすまれたのだが、中身は取られてもパスポートはそのまま残っていた。当時は日本のパスポートなど何の価値もなかったのだろう。
どちらも今では考えられない。
アフリカでは、各部族が他部族の悪口をしきりにいい、民族間の仲の悪さを実感している。当時からすでに火種はあったのだ。

ルバング島の方のエピソードは、『小野田寛郎の終わらない旅』で読んだこととほぼ重なっていた。ただ、小野田さんに作戦終了命令を出した、谷口元少佐のひょうひょうとしたキャラクターが印象に残った。

ちょっと調べてみたところでは、この鈴木紀夫という人は、雪男を探しに行ったヒマラヤで遭難し、38歳で亡くなっているそうだ。
一方小野田さんはご健在。
不思議な気がする。
図書館で借りたこの本は、昭和49年出版当時のもので、鈴木氏のその後も、小野田さんのその後も全く反映していない。
そこが妙に切なかった。